No.5「トリッキーな男」

誰にでも忘れられないシーンがある..。
「かえるとび」とか「トリッキー」とか言われたボクサー・輪島の ことを語らねばなるまい..。

輪島は、今は団子屋さんをやっているとか。
従兄弟(だったと思います)の元横綱・輪島、その後 プロレスラーに転向して、失敗に終わった男とは堅実さにおいて、 違いがあるのでしょうか。
バンタム級であったか、何であったか記憶はありません。世界 チャンピオンとなって久しく、第何戦かのタイトルマッチで、韓国 の確か、リュウとか言う選手にチャンピオンベルトを奪われてしまっ たのです。

その試合はみるも無惨で、体力の限界を感じさせるよう にスピードの違いが歴然としていました。
その後、挑戦者に敗れた元チャンピオンには、希望すればもう一度対戦する権利があって、 それが、「リターンマッチ」なのであります。
そのような負け方であったにもかかわらず、輪島はもう一度戦うことになりました。
敗れはしたものの、今まで本当によくやった。ご苦労様!
これで潔く引退だろうと誰もが思っていたのです。
ところがなんと、リターンマッチをするというのです。
タイトルマネー欲しさに、恥かきをするのかと、私は失望したものです。

リターンマッチ前夜には、普通は「1回でノックアウトだ!」 などと、闘志むき出しのポーズで新聞に載るものです。
このときの輪島は、風邪をひいたとかで、哀れ大きなマスク姿で登場。
あとで聞けば、これは敵を油断させる作戦だったようです。
失望しつつも、私はそのリターンマッチを観戦したのであります。
前評判どおり、輪島は打たれ、目は腫れ上がり、苦戦です。輪島頑張れ! 
老体(?)に鞭打って、渾身の力を振り絞って戦う輪島の姿は 見ている方にも力がこもってまいります。
ところが、不利な情勢から一転。
ある回から俄然ダッシュダッシュの攻勢に転じ、なんとチャンピオンのリュウを ノックアウトしたのであります。

ああ、輪島よ。あなたは本当に偉かった!ぼろぼろの体で、男の 意地を見せてくれた、世紀の偉大なチャンピオンの勇姿を一生忘れること はないでしょう。