3.「読書について」

 「本はこころの旅路」と、横浜のある書店のカバー紙に印刷してあった。

 小中学校の読書感想文を書くために、興味のない本を無理矢理読んでも、楽しくも何ともなく、 ページをめくること自体苦痛であった。

 本は楽しいと感じたのは、だいぶ遅くて、高校生の時、暇に任せて本棚にあった「ギリシャ・ローマ神話」を 読んだのが最初のことである。 
 古代神話の英雄たちの冒険物といった感がありあっという間に 読み終えた。 
 次に似たようなものはないかと本棚を見渡すと、「シャーロックホームズの冒険」 というのがあった。 
 ところが、これは古典推理小説の決定版であり、このシリーズを全部読み あさり、アガサクリスティなどもずいぶんと読んだ。 
 社会人になってから、「宮本武蔵」に始まり、吉川英治を、そして司馬遼太郎の戦国物に 夢中になった。

 読書をしていると、いつのまにか時空を超えて本の中へトリップしてしまう。 
 まさに、こころの旅路だ。 
 現実逃避といえば、言えなくもないが、こころの旅路を一つ終えるごとに、自分自身への土産物も少しずつ たまってゆくような気がする。 
 君たちも、小さいときから町の図書館で本を借りて読んだりした。 
 でも、本当に感動し揺り動かされる本に巡り合えることを期待している。 
 本を友とすることで、新しい自分の世界が大きく拓かれるからだ。

 最近は小説を読むことが減り、別の分野が多いが、今までに読んだ小説としての最高傑作を 紹介しておこう。 
 「柳生兵庫助(全八巻)」(津本 陽)である。 
 単なる剣豪物ではけっしてない。スリル、スピード、サスペンスの3Sがあり、ロマンスあり。 そして、違和感のない原始宗教的、仏教的な神秘性も ありで、父は恐らくこれを凌ぐ小説作品に巡り合うことはないと思う。 
 女性でも剣豪小説や時代物を読む可憐な人がいる。 
 是非、その気になったら、一読してもらいたい本だ。 
 そして、登場する「兵庫助」や「お千世」に対して、君たちがどのように感じるか、 いつか酒を飲みながら一緒に語ってみたい。

(2000年暮れ記)