5.「日本のことを知ろう」

君たち三人は、日本というこの国に生まれ育った。

何気ない日々の生活様式や正月から大晦日までの1年間の様々な行事の中に、 この国で生きた人々の歴史や文化を引き継いでいるのである。
あるいは、無意識の行動原理の中にも、日本人としての気質が受け継がれている。

アメリカ人が最も望んで手にすることができないものは、長い「歴史」であり、その長い歴史に 根ざす文化である。
日本は不幸にして太平洋戦争を起こし、敗戦した。
このとき、戦勝国の思惑もあろうが、世界に誇るべき歴史を、全部悪者扱いにして しまった感がある。

余談だが、なぜ戦争に突入したかの時代背景と世情は、教科書だけでは正しく理解する事はできないので、 一度は勉強して欲しい。

ここで言いたいことは、君たちの遠い祖先、この国に生きた日本民族は、世界に誇れる素晴らしい 民族だったということだ。
この素晴らしい自国のこと、人々のこと、この国の歴史を是非学んで欲しいのだ。

世の中はますますグローバル化して、外国と日本、外国人と日本人は更に近い存在になるだろう。
そうした時にも、誇るべき自らの国や文化を説明できないようなことでは恥ずかしいことではないか。

温故知新。
物事の将来を予測する上でも、歴史に学ぶということは、大いに役立つことである。

何が素晴らしいか、いくつかあげてみよう。

まず言えることは、総じて平和であり、助け合いながら生きてきたということだ。
縄文時代の想像以上に豊かな暮らしぶりを知ると驚くはずだ。
戦さが始まった弥生時代も、外国の戦いと比べたら殆ど平和で奴隷もいない。
大々的な宗教戦争で血を流すということもなかった。あることはあったが、外国の宗教戦争に 比べたら、殆ど無いに等しい。
科学の発展にともなって、多くの人命を落としたり、世の中が混乱することもなかった。
地動説を知っても特段の衝撃も受けていない。

日本人は、新しいことに寛容であり、合理的な「いいとこどり」で、幾多の危機を 乗り切った民族である。
このあたりは、聖徳太子の影響を学ぶとおもしろい。

たとえば江戸時代の中期に、山脇東洋という漢方医がいた。
彼は、許されて人体解剖を行い、中国から渡ってきた解剖図の間違いを指摘して「蔵志」なる 本に著している。

ザビエルが来た頃の日本人は、自国との違いはあっても、ヨーロッパ人よりも日本人が遅れている という考えはまるでなく、外交においても堂々としていたのである。

日本の文化は平安時代から始まり、我々の生活様式の起源はだいたい室町時代から 発生しているようだ。
お茶、お花、能狂言、舞踊。 ものを記録するということが、無学な庶民にまで広まっている。

江戸の寺子屋には、庶民の子供も通い、いわゆる読み書きそろばんが出来て、 世界的にも一般庶民の知的水準は高かったという。

君たちは縁があり、日本人に生まれついたのだ。
この国が持つ独特な文化や歴史のことに興味を示し、学ぶ姿勢を忘れないで欲しい。
それはある意味で、自分自身について考え、知ることでもあるからだ。

その時のために、いくつか紹介しておくので参考にして欲しい。

 「日本人とは何か」(山本七平)
 「日本とは何か」 (堺屋太一)
 「現代を見る歴史」(堺屋太一)
 「歴史からの発想」(堺屋太一)
 「逆説の日本史」 (井沢元彦)
 「日本人と日本文化」(司馬遼太郎、ドナルド・キーン)
 「国民の歴史」  (西尾幹二)
 「この一冊で日本の歴史がわかる」(小和田哲夫)

 

(2001年記)